極寒の朝、倒れた木に跨ったまま静止する謎の男
今週のお題「雪」
まだ学生だったある日、ある雪国で3日ほど滞在したことがあった。
朝起きて外を歩いていると、積もった雪の重さで木が倒れ、道に横たわっていた。
雪国では雪の重さで木が倒れることまであるのか、と少し感動できたのは良かったが、倒れた木が端から端まで道を塞いでいたので、道を通るためには木を乗り越えて行かなければならなかった。
まあなんとかなるか、と思いながら歩いて木に近づいていくと、体格の良い20歳前後の男性が木に跨ったまま止まっていることに気づいた。
ワイ(この寒い中何しとんねん…)
と思いつつ、なんとなくあまり目を合わせないようにその男性のいる場所と離れた側の木に向かっていった。
太い木だったし、道が凍っていて滑るので、簡単に木を跨ぐことはできなかった。
このため、倒れた木の上に乗ってから反対側にジャンプして降りる、という動作でなんとか乗り越えることができた。
それにしてもあの男性は何をしていたのだろう。
ワイ(体はゴツイけど、きっと極寒の朝でも倒れた木に興奮して一人で跨り続けるくらい少年の心を忘れない人なんだろう)
ふと先ほどの男性の方を振り返ると、相変わらず木に跨っていた。
こころなしか寂しそうな目でこちらを見ている気がしないでもなかった。
ワイ(もしかするととても嫌なことがあったか何かで、頭を冷やしているところなのかもしれない)
何故木に跨り続けるのか理由は気になったが、それには触れない方が良いと考え、そのまま歩いていくことにした。
数年後、その理由は判明した。
会社員となったある日、仕事である男性と雑談していた。
男「私はヘルニア持ちで、無理するとすぐに腰が痛くなるんですよ」
ワイ「そうなんですか、気をつけないといけないですね」
男「昔、道に木が倒れていたことがあり、それを跨いで通ろうとしたら、持病のヘルニアが悪化して動けなくなってしまったことがあるんですよ。」
ワイ「そもそも何で木が倒れていたんですか?」
男「大雪の後だったので、雪の重さに耐えられず木が倒れたみたいです」
男「私が木に跨っているのをみんな不思議そうに見ながら木を乗り越えていっていました」
男「その時に一度木に乗る人がいて、乗るときの振動で木が大きく揺れるので腰がさらに痛くなっていつまでも動けなくなりました」
ワイ「寒い中不運でしたね」
ワイ(……………ん?)
ワイ(これあいつやないか!)
その人は私が昔見た男性と同じように体格も良く、うろ覚えだが顔も似ているような気がする。
そして出身地も私が昔行ったあの雪国だった。
少年の心を忘れない人だとか、頭を冷やしているところだとか、完全に間違った観察だった。
本当は助けなくてはいけなかったんだな。
ワイ「無理のないようにしてください」
男「はい」
ワイ(…あのときは木を揺らしてスマンな)